Related Collectible
Lore
ウィーバーのバンド
――大義に包まれ、意義に纏われていたかつての生活は廃れていった――
このアーマーの素材には共振する記憶が含まれている。鍛造された防具の内には、むき出しになったドレッドの起源が刻まれている。
装飾が施された輿の周囲に厚いとばりが降ろされ、ピラミッドの部屋に深い角笛の音が響く。
古びたバニラの香りがする空気の中、皆が不安げに動く。
跪いて体勢を整え待つイームの顔を儀式用の仮面が覆う。サイオンは目を閉じて振動を感じ、輿のとばりの向こうで揺れ動く姿に何が起きているのか突きとめようとする。影の軍団のアーマーが発する低い音をイームは耳にするが、それも姉妹たちの精神から発せられる聖歌のリズムに飲み込まれてしまう。仮面によって、彼女の視界だけでなく、思考も覆われている。彼女は好奇心を捨て、儀式が要求するとおりに未知を未知のままとする。
数々の「声」によって部屋に静粛がもたらされる。「食の姉妹の長女、イーム。オトゾットに信頼されし者。超越のために高められし者」
その言葉がもたらすいくばくかの疑念を、イームは飲み込んだ。選ばれし者。彼女は飾り立てられるのだ。カルスの宮廷に、そしてオトゾットのもとへと上り詰めたように、いつか門弟の一員となるだろう。選ばれし者。辛抱強く目撃者の影に潜むだけのハウス・オブ・サルベーションの連中とは違う。権力のために自らの心臓すらくりぬく、命令の残滓。影の軍団はハウス・オブ・サルベーションとは違う。彼らは勝者だ。これは彼女の報酬だ。
聖歌が再開する。装飾の施された剣をまとった金色に輝くリージョナリーたちによって輿が持ち上げられ、道中の物を踏み潰すような勢いで進んでいくのを彼女は感じた。
再び輿が地面につくのをイームは感じ、前へと歩み出る。石がこすれる音が聞こえ、声が彼女を前へと、石の通路へと導く…
囲まれて…
まるで内にあるものを外へと流出させようとするかのように、周囲にはなにも無い…
「主よ」深淵でのイームの言葉に、音は伴わなかった。
声が暗黒を、彼女の仮面を、その精神を貫く…
仮面が粉々になり静止する破片へと形を変えて、イームは息をのむ。
「明瞭な精神を持ち、最も価値のある者よ。その民の中で最初に登りし者よ。我々の意思を、お前へと反映させよう」
バラバラになった仮面の隙間を縫うように、根が伸びてくるのをイームは感じた。彼女の瞳を通じて、自身の中にまで伸びてくる。とてつもない興奮の波が、彼女の神経を駆け抜け、一瞬一瞬が意識を釘付けにしてから、また次のものへと移り変わっていく。
「認められし者。最も価値のある者。その民の中で最初に登りし者よ」
それはイームの目から仮面を剥がそうとする…
彼女は疑問を投げかける。
「我々の手から真実を、目を受け取れ」
可能性を秘めたそれぞれの形態で、光学層は離れていく… 声はイームの手にナイフを渡す…
彼女は拒絶する。
「より偉大な意思に使えるための、お前の可能性の集束だ」
神格化に向けた、最初の導かれし切開…
イームは懇願する。
「すべてがひとつとなって動く」
それはイームの手を使い、イームから新たな形態を彫り出していく…
「最終形態を実現するための導管だ」
実体の形を再定義する刃を、目が見つめる。効率的な残虐さで、かつての形からそぎ落とされる。足元には切り捨てられた残骸が落ちている。
イームは精神世界へと逃避する。彼女の肉体はそこに残る。
「お前のなしたことは、我々の行動の中に響く。完全の、完成の中で。お前は生まれ変わる」
その仕事ぶりは素早く、繊細で、手慣れたものだった。そして、それは終わった。
***
「私はイーム」邪悪なる約束の対価をかろうじて逃れて存在を得た者が言った。
彼女の前には空っぽの精神世界が広がっている。だがそれは侵入してくる存在によって限られている。ドッペルゲンガー、彼女の精神の広間をうろつく影だ。ここを無事に離れることはできないかもしれないが、残ってさえいればここは安息地となってくれる。未だに彼女はここの支配者だ。儀式の前と変わらず、彼女の体は彼女のものだ。彼女の顔を覆う仮面はない。
手の届かないところに、暗い扉がある。その扉に影がぶつかる。驚いたイームは瞬きし、精神世界は形を変えて兵舎となり、再び安息の地へと戻る。扉。覗き穴のついた、頑丈なハッチだ。
彼女は手を暗い扉に押し当て、ハッチの丸窓を覗き込んだ。彼女の姿から刻まれた模倣品が、覗き返していた。
「ここには決して入らせない」
それはうなり声を立て、丸窓に爪を立てて精神世界の境界線を押し込んでくる。それは形を変え、兵舎の上に押し寄せる。その影は建物の基礎をひっくり返す根のように壁にくいこんでくる。それは地面を揺らし、狂気の叫び声をあげ、安息の地を震わせ、ひびを作り出す。だが、壁はしっかりと保っている。
「イームは私だ、お前ではない」
残されたのが自分ひとりとなるまで、彼女はそこにいるだろう。